◎ ベ ン チ ャ ー に は “ 家 族 の 協 力 ” が 不 可 欠

私、四十九歳。妻あり。高校生、中学生の娘あり。通算二十五年のサラリーマン現役選手であった。その私が、
深夜、額に“ 冷や汗 ”を浮かべながら必死になって妻に語りかけていた。

「男として生まれたからには、一度はベンチャーして“ 男子の本懐 ”を!」
「この“ 天の時 ”を逃しては・・・」
「本当の生き甲斐をもって、毎日を悔いなく生き生き生活するために・・・」
「ベンチャーこそ天から与えられた“ わが人生 ”!」

  私は、長年のサラリーマン生活から男が“ 脱サラ ”や“ 転職 ”の決意をしようとする時、往々にして妻や家族がその足をひっぱることが少なくないことを知っていた。

  数少ない熟年成功者の大先輩が“ ベンチャー成功条件 ”として私に教えてくれたものがある。それは、① 健康、② 人脈、③ 度胸、④ 忍耐、は勿論のこと、それ以外に何より強力な武器は“ 家族の協力 ”だと。実践体験の中でつかみとったこれらの言葉には真実味があった。

(この年になって、いまさら、何を“ 血迷 ”って・・・)
(安定した生活を乱されたくないの)
(夢だ、希望だ、挑戦だといったって、それじゃ食っていけないでしょ)
(私は“ 給料運搬人 ”と結婚したの。そうでなくちゃあ、別れてからにして!)

たいていは、こんな“ 女房族 ”のご託宣で“ 男の決意 ”は萎えてしまう。身内という足もとから、現実という“ 壁 ”にはばまれ、夢さめて再び下積みのサラリーマン生活を繰り返すことになる。男の夢をむしりとられ、希望を剥がされたサラリーマンが、その後どのように落胆して朽ちていったかという先輩や上司の例を、私は嫌というほど知っている。

だから、まずはじめに妻を説得する私の言葉は真剣だった。妻や家族の了解さえとれず、説得もできなくて何がベンチャーだという気持ちもあるにはあったが・・・。

もっとも私の場合、過去にこうした“ 膝詰談判 ”を通して妻を説得した体験が何度かあった。転勤のとき、また十五年勤め上げた証券会社から転職するときなどである。

「また、あなたの“ 背伸び ”がはじまったのね・・・」

  結婚して二十年。やはり、妻がいちばんの私の理解者であったようだ。サラリーマン生活のなかで、絶えず“ 背伸び ”をし、自分自身に言い聞かせながら、夢中で驀進してきたことを、妻は言葉に出さなくともよくわかっていた。そして、この年齢になって新たなベンチャーを試み、“ 背伸び ”も構わず跳ぼうとしている私に、黙ってついてくるのだという。喋るのに疲れた私は、思わず目頭が熱くなるのを感じて目を閉じた。

(妻よ、子よ、ありがとう・・・)そんな感謝の気持ちと同時に、よぉーし、愛する妻といとしい子どものためにも、明日からは全身全霊を込めてベンチャーを成功させるんだという意欲が漲りはじめてきた。気力を充実させてベンチャーする気合と気魄・・・それは妻たちに支えられての、私の“ 祈り ”のようなものだったのかも知れない。  つづく

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