【昨26日の総括記につづくNo.5】
〇 高 齢 者 の 就 労 と 障 が い 者 の 
          就 労 事 業 へ の チ ャ レ ン ジ (抱負)
上田研二 :高齢者活躍支援協議会理事長
 高齢者活躍支援協議会は、2010年に創設されました。最初、高齢者活用連絡協議会と言ったのですが、樋口恵子先生に目線が高過ぎると叱られ、名称変更しました。私は賞味期限が切れかかっている経営者ですが、期限が切れるまでもう一頑張りしようと思っています。人は働くから元気なのだと信じており、私は生涯働きたいと思っています。
  協議会の設立目的は、㈱高齢社のビジネスモデルの普及促進です。基本理念は、一人でも多くの高齢者に「働く場」と「生きがい」を提供することです。
 私のようにパーキンソン病を患った経営者で5年以上働いた人はいないとのことですが、私は、㈱高齢社のほうは人に譲りましたけれど、2月1日から㈱ユメニティという関係会社のトップに復帰します。
私が2000年に創設して、やってきました高齢社という会社の特徴は、年金併用型で、入社資格は60~75歳、定年制はありません。それから働き方は、ワークシェアリングで、大体週3日で、2人1組で働きます。
  ㈱高齢社をつくった当初は、男性が多かったのですが、ある時応募してきた高齢女性から女性版高齢社を創って欲しいと言われ、㈱高齢社創設12年目の2012年に「家事代行サービス・㈱かじワン」を立ち上げました。料金は都内で一番安いと言われています。30代、40代の女性が多く、幅広い複合的家事サービスを提供できるように頑張っております。
  私は、20世紀は資本主義の時代、21世紀は人本主義の時代と考えています。この原理は、人を企業経営の中心におく考え方です。
それから、今の少子高齢化を乗り切るには、高齢者だけで考えても駄目で、老若男女が一堂に会して、知恵を出し合わなければいけないと思っています。この1年で検討し、準備して、来年はこのテーマでシンポジウムあるいはセミナーを開催したいと思っています。
  今、日本には障がい者の方が800万人います。この障がい者の方たちにも、一人でも多く、「働く場」と「生きがい」を提供できればいいと思って、難しいのは分かっていますが、㈱ユメニティでこの事業に是非チャレンジしたいと思っています。

〇 多 く の 可 能 性 を 生 み 出 す 地 域 の 力
永戸祐三 :日本労働者協同組合(ワーカーズコープ)連合会理事長
 私たちが創った高齢者協同組合(高齢協)は、生協法(消費者生活協同組合法)の認可を受けたものですから、生協法は利用者の組合になっておりまして、高齢者が生きがいを持って主体的に活躍する組織として、高齢協を創り、介護保険の事業で、全国22~23のこういった高齢者協同組合が60億円ぐらいの事業規模をつくったのですが、そこは未だ高齢者が主に活躍する場になっていなくて、この力を基礎に、本格的に高齢者が、元気な高齢者がますます元気になる社会をつくるための場を高齢協としてつくっていきたいと今思っています。そして、その一つの中心に、地域の達人たちを掘り起こして、取り敢えず1万人ぐらいの達人たちのネットワークをつくりたいというのが、今の主要な活動の目標になっています。
 これは、どういうことかと言いますと、率直なところ地域に高齢者の出番や居場所があまりないのです。何をしたらいいのか分からない人が圧倒的に多い。そして、自分の持っている力を発揮できないのが普通になっていると思うのです。そういうこともあって、今や消滅する自治体が増えるかもしれないと増田寛也さんがおっしゃっていて、それをめぐって議論が湧いております。
● 若 者 に 働 く 意 欲 を 沸 か せ た お ば あ さ ん の 力
 これに関して2つばかり経験しました。埼玉県の深谷、宮城県の登米です。
 これらでは、ワカーズコープで若者のサポートステーションをやったのですが、サポートステーションでは、10年、15年閉じ篭っていた若者が、自分が何故そうなったかについては言わないのです。この登米と深谷のオタクの経験でサポートステーションの責任者はこのようなことだったら止めちゃえばよかったと思っていたところ、ある日冬場に近くなると、味噌作りを手伝ってもらっている深谷のあるコープのおばあちゃんのところへ若者を連れて行っているのです。そうすると、若者はそのおばあちゃんに、自分が何で閉じ篭ったのか、家族がどう思っているか、自分がどういう気持ちでいるかということを淡々と喋っているのですね。おばあちゃんは、「どうしろ、こうしろ」なんて何も言わないで、「そうかい、そうかい」と言って、昼ご飯を出してやっている。昼ご飯は、田舎のお浸しとか胡麻和えとかですが、そうすると「物凄く美味しい」と、若者は食べると言うのです。「半端だ、嫌だ」とは言わない。「多分、家でお浸しや胡麻和えのような食事をしていないのではないか」とそのおばあちゃんは言います。そこで、味噌作りが一段落終えると、「自分もほかの仕事に就けるかもしれない」と若者に働く意欲が出てくる。
 登米では、味噌作りにかけてはこの人がこの地域で一番だというおばあちゃんがおられる。深谷も登米も80歳直前のおばあちゃんなのですけれど……。このおばあちゃんに、「閉じ篭っている若者が味噌作りをやろうとしているので、教えてくれないか」と言いに行きましたところ、「もう私も3~4人でずっと続けてきた味噌作りは、家族とその周辺だけしか今やっていないよ」と固辞されたのですが、漸く説き伏せて出てきてくれた。そうしたら、開所式で、それまでずっと味噌を作ってきて、今まで外の人に喋ったことがないような13年間も閉じ篭っていた青年が皆の前で訥々と喋るのですね。「自分もやっぱり社会参加したいのだ」と語るのです。
 地域におけるいろいろな社会的困難による困窮者を市民自身がどう考えるのかということがあります。今までだとそれをどうするかは、行政の仕事で国の責任だと言っていたわけですよね。2015年4月からは生活困窮者自立支援制度が始まります。これは、出口の就労支援のところに予算が殆どついていませんから、非常に不完全な制度だと私たちは思っているのですけれど、それでもやはりその制度を活用して、地域が分断され、分裂する状況を克服し、行政や国ではなくて、新しい社会参加をした人の力として、行政も含めて認めていただけるような状態をつくらなければいけない。それはまちをつくるということでもあるのではないか。その時に、具体的に達人たちが活躍できる場をつくることがその人たちを惹きつける非常に大きな手段になり得ると思って、登米では去年から今年にかけて皆で物凄く一杯お味噌をつくり、今販売しています。「ああ、あのおばあちゃんの味噌が蘇った」と地域で今評判になっているところなのです。
● 生 き が い に つ な が る 仕 事 こ そ
 長野県の伊那市に、私どものワーカーズコープにも参加いただいているグリーンファームという民間経営の農産物直売所があります。伊那市は人口7万人の町で、一番いい場所には農協の直売所があります。グリーンファームは高台にテントを張っただけみたいな直売所なのですが、これは小林史麿さんという代表が、これだけ高齢者が多くなっているから、高齢者の生きがいをつくるために始めた。この地域の農家には高齢者が多いが、つくったものが売れない。それだったらと、高齢者の生きがいにも通じるからと、そこでは自分で値段をつけ、自分で商品を並べることにした。そのようにして始めたら、地域のあらゆる達人たちが今そこへ寄って行っているのです。農協の直売所には全然お客が来ないけれど、グリーンファームの販売量は圧倒的に多い。
 何故そうなるかと言えば、季節になると、まだ中で蜂が蠢いている蜂の巣箱が売られている。松茸の時期になると、松茸取りの名人が松茸を出す。一番儲けている人は誰かと言うと、山で枯れ木を収集し、それに花をつけるなどしてつくったオブジェを売っている人で、年間1,500万円売れるそうです。グリーンファーム全体では、月に1億円売り上げています。観光の名所にもなっていて、観光バスが定期的に入り込んでいるのですが、決して綺麗なところではない。
 そこは、何で成功したのかなと考えると、あらゆる地域の高齢者の人たちが、自分は山が得意だ、畑のこういうことが得意だ、蕎麦打ちが得意だという人たちが全部自分の力を結集しているのです。そこからまた新しいことが生まれてきて、蕎麦打ちのネットワークができたり、オブジェのネットワークができたりする。このことは、生活困窮者の問題とか、堀田先生の言われる要支援の人の支援をすることと結びつくことなのだと思います。
 今の社会で、本当に青年たちが引き籠っている数は並ではないのです。秋田の藤里町の社協が頑張って、いろいろなイベントを組んで引き籠っている若者を引き摺り出したところ、ある日たまたまその若者が「仕事がしたいのだ。本当は」とポツっと言ったそうです。だったら、このようなイベントではなくて、この地域で若者が就けるような仕事を見出さなくてはいけない。仕事づくりが必要だと気づき、それに取り組んでいるところです。
 この話と軌を一にしていて、宮城県の農業をやっておられる60代の親父さんが、「うちの学童保育の子どもたちに直接農業の経験をさせたい」と学童の指導員が言ったところ、快諾してくれた。そこで、子供たちが週2回ぐらい農作業をいろいろ行いましたが、子どもたちが凄く喜んでいる。一方、自治会長、老人クラブ会長もやったその親父さんは子どもたちと接することで、元気をもらい、子供たちも懐き、子どもたちは、「地域先生」と呼んでいる。私は、全国に「地域先生」を何万人もつくるべきではないかと思っています。
 主体的に何事もやれることはやろうではないか。そういう気風を私はここにいる皆さんが地域から見出していただけることを是非やっていただきたいなと思っています。   つづく

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