日本実力底上げ:人口減を生産性で克服
2014年12月27日 お仕事 2014/12/26 2:00発の情報元 日本経済新聞電子版/日経Net /転載
URL= http://www.nikkei.com/article/DGXLASFS25H52_V21C14A2MM8000/
日 本 、「 実 力 」 底 上 げ の 時
人 口 減 を 生 産 性 で 克 服
3年目に入ったアベノミクス。日本再生の本丸であるはずの第3の矢、成長戦略が本格始動せず、日本経済の実力である「潜在成長力」を底上げする道筋はみえないままだ。総選挙で盤石の政権基盤を得た安倍晋三首相に、あえてもう一度、成長戦略の意義を問う。
■ 経 済 縮 小 連 鎖 も
衆院の解散風が吹き荒れていた11月14日。安倍政権への「信任」を先取りした市場が円安・株高に沸く陰で、政府の「選択する未来」委員会に出された作業部会の報告書に、ひっそりとこんなことが書かれていた。
「現状を放置すれば、いずれ経済成長の維持も困難となり、経済規模の縮小が加速する『縮小スパイラル』に陥る」
2040年代から年0.1%程度のマイナス成長となり、60年まで続く。荒唐無稽と言い切れるか。内閣府や日銀の推計では、すでに日本の潜在成長率( potential rate of growth:1国が生み出せるモノやサービスの平均的な伸び。インフレにもデフレにもならない「巡航速度」の経済成長率を指す。労働力人口、工場や機械などの資本ストック、技術進歩による生産性の向上という3つの要素で決まる。経済の実力を測る目安となる。)は0.5~0.6%まで低下している。
政府は人口減を食い止めようと、1億人維持を掲げるが、成果を上げるのは簡単ではない。
道はある。東京大学の吉川洋教授は「人口減を過度に悲観する必要はない」と唱える。労働力や資本を効率よく活用することにより、人口減を上回る勢いで生産性を伸ばせるかがカギを握る。
起爆剤はイノベーション(革新)だ。代表格が今年ノーベル賞を受賞した青色発光ダイオード(blue light-emitting diode ; blue LED:電圧をかけると青い光を出す半導体素子。徳島県の日亜化学工業が1993年に商品化した。LEDは赤色や緑色の商品化が先行し、窒化ガリウム系の化合物を使って初めて青色が実現した。3色を組み合わせるとあらゆる色が出せる。表示板をはじめ、携帯電話、信号機などへの実用化が進んでおり、消費電力の少ない照明装置などへの応用も期待される。特許を巡る紛争も起き、日亜の元社員、中村修二・米カリフォルニア大学教授が2001年、発明対価の支払いを求め、日亜を提訴。日亜が約8億4000万円を支払うことで05年に和解が成立した。) 消費電力が少なく長持ちするLED照明の世界市場は、2020年に13年比3.8倍の6.8兆円になる予測もある。
難しい技術開発に限った話ではない。例えば、大人用の紙おむつ。乱暴に言えば子ども用を大きくしたものだが、高齢化で市場を切り開いた。ユニ・チャームでは12年度に売上高が子ども用を逆転した。新しい需要と結びつけるアイデアがあれば生産性を高められる。
■ 柔 軟 な 発 想 必 要
働き手を増やそうと、女性や高齢者、外国人労働者の活用も叫ばれる。だが「単に頭数をそろえようというだけの話ではない」(スタンフォード大学の星岳雄教授)。
様々な人々が集まれば柔軟な発想が生まれ、生産性も向上する。日産自動車は新型「ノート」の企画責任者に専業主婦だった女性を起用。チャイルドシートに子供を乗せやすくした使い勝手の良さで、ヒットとなった。
アベノミクスは本来、第1の矢の金融緩和と第2の矢の財政出動で時間を稼ぐうちに、第3の矢の成長戦略で、低成長の壁を突破する政策のはずだった。だが第3の矢がいっこうに飛ばない。
円安で潤った輸出企業も攻めの設備投資には、なかなか踏み切れない。民間の創意工夫を引き出すために、政府は何をすべきか。大胆な法人減税で企業の投資意欲を刺激する。民間の自由な行動を妨げる規制を取り払う。柔軟な労働市場を整え、企業の新陳代謝を促す。魔法のつえはない。
消費増税後に2四半期連続のマイナス成長になったのも、そもそも「経済の実力が低くプラスとマイナスが紙一重」(内閣府OB)だからだ。愚直に成長の底上げ策を進める覚悟が問われる。(編集委員 大塚節雄)
URL= http://www.nikkei.com/article/DGXLASFS25H52_V21C14A2MM8000/
日 本 、「 実 力 」 底 上 げ の 時
人 口 減 を 生 産 性 で 克 服
3年目に入ったアベノミクス。日本再生の本丸であるはずの第3の矢、成長戦略が本格始動せず、日本経済の実力である「潜在成長力」を底上げする道筋はみえないままだ。総選挙で盤石の政権基盤を得た安倍晋三首相に、あえてもう一度、成長戦略の意義を問う。
■ 経 済 縮 小 連 鎖 も
衆院の解散風が吹き荒れていた11月14日。安倍政権への「信任」を先取りした市場が円安・株高に沸く陰で、政府の「選択する未来」委員会に出された作業部会の報告書に、ひっそりとこんなことが書かれていた。
「現状を放置すれば、いずれ経済成長の維持も困難となり、経済規模の縮小が加速する『縮小スパイラル』に陥る」
2040年代から年0.1%程度のマイナス成長となり、60年まで続く。荒唐無稽と言い切れるか。内閣府や日銀の推計では、すでに日本の潜在成長率( potential rate of growth:1国が生み出せるモノやサービスの平均的な伸び。インフレにもデフレにもならない「巡航速度」の経済成長率を指す。労働力人口、工場や機械などの資本ストック、技術進歩による生産性の向上という3つの要素で決まる。経済の実力を測る目安となる。)は0.5~0.6%まで低下している。
政府は人口減を食い止めようと、1億人維持を掲げるが、成果を上げるのは簡単ではない。
道はある。東京大学の吉川洋教授は「人口減を過度に悲観する必要はない」と唱える。労働力や資本を効率よく活用することにより、人口減を上回る勢いで生産性を伸ばせるかがカギを握る。
起爆剤はイノベーション(革新)だ。代表格が今年ノーベル賞を受賞した青色発光ダイオード(blue light-emitting diode ; blue LED:電圧をかけると青い光を出す半導体素子。徳島県の日亜化学工業が1993年に商品化した。LEDは赤色や緑色の商品化が先行し、窒化ガリウム系の化合物を使って初めて青色が実現した。3色を組み合わせるとあらゆる色が出せる。表示板をはじめ、携帯電話、信号機などへの実用化が進んでおり、消費電力の少ない照明装置などへの応用も期待される。特許を巡る紛争も起き、日亜の元社員、中村修二・米カリフォルニア大学教授が2001年、発明対価の支払いを求め、日亜を提訴。日亜が約8億4000万円を支払うことで05年に和解が成立した。) 消費電力が少なく長持ちするLED照明の世界市場は、2020年に13年比3.8倍の6.8兆円になる予測もある。
難しい技術開発に限った話ではない。例えば、大人用の紙おむつ。乱暴に言えば子ども用を大きくしたものだが、高齢化で市場を切り開いた。ユニ・チャームでは12年度に売上高が子ども用を逆転した。新しい需要と結びつけるアイデアがあれば生産性を高められる。
■ 柔 軟 な 発 想 必 要
働き手を増やそうと、女性や高齢者、外国人労働者の活用も叫ばれる。だが「単に頭数をそろえようというだけの話ではない」(スタンフォード大学の星岳雄教授)。
様々な人々が集まれば柔軟な発想が生まれ、生産性も向上する。日産自動車は新型「ノート」の企画責任者に専業主婦だった女性を起用。チャイルドシートに子供を乗せやすくした使い勝手の良さで、ヒットとなった。
アベノミクスは本来、第1の矢の金融緩和と第2の矢の財政出動で時間を稼ぐうちに、第3の矢の成長戦略で、低成長の壁を突破する政策のはずだった。だが第3の矢がいっこうに飛ばない。
円安で潤った輸出企業も攻めの設備投資には、なかなか踏み切れない。民間の創意工夫を引き出すために、政府は何をすべきか。大胆な法人減税で企業の投資意欲を刺激する。民間の自由な行動を妨げる規制を取り払う。柔軟な労働市場を整え、企業の新陳代謝を促す。魔法のつえはない。
消費増税後に2四半期連続のマイナス成長になったのも、そもそも「経済の実力が低くプラスとマイナスが紙一重」(内閣府OB)だからだ。愚直に成長の底上げ策を進める覚悟が問われる。(編集委員 大塚節雄)
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