このメールは 日本生涯現役推進協議会 様宛にお送りしました。
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    J.I.メールニュース No.670 2014.09.04発行 
             「これからの「医療」の話をしよう」
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<巻頭寄稿文>
    「 こ れ か ら の 「 医 療 」 の 話 を し よ う 」    
                  南日本ヘルスリサーチラボ代表   森田 洋之
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皆さんは「夕張」と聞いて何を思い浮かべますか?

「夕張メロン」と「市の財政破綻」は有名ですね。でも実は、夕張にはもう一つ日本一のものがあります。それは「高齢化率日本一(45%)の市」だということです。

その夕張市は、市の財政破綻により医療機関が縮小されてしまいました。

市内で唯一入院できる医療機関だった夕張市立総合病院(171床)は、19床の小さな市立診療所になりました。大都会から隔たれた山間の僻地で、市内のベッド数がほぼ『10分の1』となり、外科も小児科も整形外科もなくなりました。

高齢化率日本一の町で医療崩壊がおこったのです。重病や大怪我は市内の診療所では対応できませんから、札幌の病院などへ搬送されることになりました。救急車が病院へ到着するまでの時間は約2倍に延びました。考えるだけで恐ろしいですね。

それでは、夕張市民はいわゆる「医療崩壊」によって健康を害し、命の危機に脅かされたのでしょうか。

実は、その後のデータは「そうではなさそうだ」とう言うことを示唆しています。

夕張市民の各疾患別のSMR(簡単に言うと「死亡率」)は医療崩壊後、死因上位5疾患まですべてで横ばい~低下傾向を示していました。そのかわりに、自然死=「老衰」の死亡率は上昇しました。

今、夕張市内に、都市部の病院に多い『意識のない寝たきり高齢者』はほとんどいません。元気に雪かきをするお年寄りが多く見られます。また、高齢者一人あたり医療費は、北海道平均より一時10万円ほど低くなりました。

「夕張モデル」を考えると、私はいつも「そもそも医療って何?」という思いに至ります。

仮に、「医療とは健康で楽しい人生を送るための手段」だとするなら、はからずも夕張市民は非常に低コストでその目的を達成したのかもしれません。

医療費削減は、決して医療の目的ではありませんが、私達の世代だけが健康で楽しい人生を送り、そのツケで子供たちの世代が同じような人生を送れないのであれば、それはもちろん不幸なことです。

日本の借金は1000兆円を超えたそうです。

せめて「子供たちの世代に負担を押し付けない」程度のコストでそれを実現したいものですね。高齢化日本一の町で起きた出来事が、今後の日本の未来を照らしてくれるのかもしれません。
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【森田 洋之(もりた ひろゆき)プロフィール】
南日本ヘルスリサーチラボ代表(前夕張市立診療所所長)。横浜生まれ、経済学部卒後、医師に。北海道夕張市立診療所所長を経て、現在は鹿児島県で研究・執筆を中心に活動している。専門は在宅医療・地域医療・医療政策など。平成24年、医事新報で「夕張希望の杜の軌跡」を1年間連載。
平成26年、TEDxKagoshimaにて「医療崩壊のすすめ」を講演(https://www.youtube.com/watch?v=lL8aJE9Xp3Y)。南日本ヘルスリサーチラボ代表、鹿児島医療介護塾 まちづくり部 部長、夕張希望の杜医療介護連携アドバイザー、日本内科学会認定内科医。
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夕張市で起こったことは象徴的です。
私たちは医療や福祉にはお金がかかるとハナから思い込んでいるところがあります。だから、病院や病床数、医療費の削減というと、必ず「それは人命に対する脅威だ」という反対論が出ます。
しかし、夕張市がはからずも経験したことが示しているのは、「健康で楽しい人生を送る」ためには、医療費や病床数が多ければ多いほうが良いのではないということです。森田さんの話は、財政の問題を別にしても、私達は日本の医療のあり方を根本から考え直さなければならないことを教えてくれます。
・構想日本の医療提言URLはこちら
http://www.kosonippon.org/project/detail.php?m_project_cd=1186&m_category_cd=57
(構想日本代表 加藤秀樹)
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