■ 貿 易 黒 字 が 減 少 に 転 じ た 1 9 8 5 年

  1985年以前と以後で一番違っているのは、貿易収支の動向である。それまで勢いよく伸びていた貿易黒字が、1985年以後には減少に転じる。「輸出で外貨を稼ぐ」時代は、電子産業の場合、1985年に転機を迎えた。

  もう一度、よく考えてみよう。1985年以前は生産・輸出・貿易黒字が並行して伸びている。輸入はとるに足らない。輸出や生産に比べると内需の伸びは鈍い。

  1985年を過ぎると、輸出の伸びが鈍る。輸入が着実に増え始める。結果として貿易黒字が減少傾向となる。またシリコン需要の伸びが、1985年以後は鈍っている。半導体集積回路の国内生産が、1970~1985年ほどには伸びなくなったことを示す。

  1970年代初頭に、半導体集積回路はLSI(大規模集積回路)の段階となる。マイクロプロセッサーが登場し、マイコン・ブームとなる。コンピューターに半導体メモリーが採用される。こうして半導体産業の高度成長が始まろうとしていた。光ファイバー通信の基礎技術が出そろったのも同時期である。

  半導体集積回路はシリコンでできている。光ファイバーは石英(二酸化硅素)を主材料とするガラス線だ。この状況を私は「硅石器時代」と名付けた。これからは鉄器に代わり、硅素を主材料とする石器(硅石器)が主役となる時代、そういう意味を込めた。

  1970年代に入ると、日本の電子産業は世界的にも大きな存在となる。貿易摩擦も頻発する。実際、この時期の日本電子産業は輸出主導で成長した。1970~1985年の15年間の伸びは、生産が5倍、内需が3倍だったのに対し、輸出は11倍である。この期間が、日本の電子産業が最も元気だった時代と言えよう。

■ 貿 易 黒 字 が 減 少 に 転 じ た 1 9 8 5 年

  1985年以前と以後で一番違っているのは、貿易収支の動向である。それまで勢いよく伸びていた貿易黒字が、1985年以後には減少に転じる。「輸出で外貨を稼ぐ」時代は、電子産業の場合、1985年に転機を迎えた。

  もう一度、考えてみよう。1985年以前は生産・輸出・貿易黒字が並行して伸びている。輸入はとるに足らない。輸出や生産に比べると内需の伸びは鈍い。

  1985年を過ぎると、輸出の伸びが鈍る。輸入が着実に増え始める。結果として貿易黒字が減少傾向となる。またシリコン需要の伸びが、1985年以後は鈍っている。半導体集積回路の国内生産が、1970~1985年ほどには伸びなくなったことを示す。

■ 2 0 0 0 年 ま で は 内 需 の 伸 び が 電 子 産 業 牽 引

  電子産業の貿易黒字の減少は1985年に始まる。しかし国内生産や輸出が同時に減少を始めたわけではない。2000年の生産金額は26兆円を超え、過去最高を記録している。

  1985年から2000年までは生産も伸びているが、内需の伸びは、いっそう著しい。1985~2000年の15年間の伸びは、生産と輸出が1.5倍だったの対し、内需は2倍である。この間、日本の電子産業は内需主導で成長した。

  1985年以後の内需主導の成長は、貿易摩擦対策の観点からも好ましかった。1980年代、日本の電子産業は貿易摩擦に苦しんでいたからである。

  1985年から2000年まで、日本経済全体はバブルの熱狂から崩壊と、いわば異常事態となる。1990年代初頭にバブル経済が崩壊して以降は、21 世紀に入ってからも「失われた20年」を超え、低迷が続く。日本の名目GDP(国内総生産)は1990年以後、ほとんど伸びていない。

  ところが電子産業は同じ期間に、輸出主導から内需主導へ、ある意味、健全な構造転換を進めた、とみることができる。この間、国内生産は、それなりに伸びていた。もちろん伸び率は低下している。1970~1985年の15 年間に国内生産は5倍に成長した。しかし1985~2000年の15年間の伸びは1.5倍である。

■ 2 0 0 0 年 以 後 は 電 子 産 業 全 体 が 衰 退 へ

  電子産業生産金額を重ねてみると、まず目立つのは2000年以後の急速な減少である。2013年の生産金額は11兆円と、ピークの26兆円の半分以下となる。GDPは「ほとんど伸びない」程度なのに、電子産業生産は「10年で半減」だ。国内で生産するという観点からは、日本の電子産業は急激に衰退した。

  輸出と輸入の動きは、生産とは違う。輸出は2000年を越えて伸び続ける。この輸出の伸びを支えたのは、電子部品の輸出である。電子産業の輸出に占める部品の比率は伸び続けている。電子部品の輸出は2007年まで伸び続ける。2007年の輸出金額11兆円は、電子部品輸出の最高記録だ。

  日本電子産業全体の貿易が2012年まで辛うじて黒字を維持していたのは、電子部品の輸出が伸びていたおかげである。しかし2008年以後には、電子部品の輸出も減り始める。そして2013年、日本電子産業全体の貿易収支が、ついに赤字になる。
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[参考]日経BP社は2014年7月14日、書籍「電子立国は、なぜ凋落したか」を発行した。かつては世界を席巻し、自動車と並ぶ外貨の稼ぎ頭だった日本の電子産業の凋落ぶりがすさまじい。その真相を、元日経エレクトロニクス編集長で技術ジャーナリストの西村吉雄氏【下記:略歴】が、多面的な視点で解き明かす。
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西 村  吉 雄 氏(にしむら・よしお) 技術ジャーナリスト 1942年生まれ。1971年、東京工業大学大学院博士課程修了、工学博士。東京工業大学大学院に在学中の1967~1968年、仏モンペリエ大学固体電子工学研究センターに留学。1971年、日経マグロウヒル社(現・日経BP社)入社。1979~1990年、『日経エレクトロニクス』編集長。その後、同社で発行人、編集委員などを務める。2002年、東京大学大学院工学系研究科教授。2003年に同大学を定年退官後、東京工業大学監事、早稲田大学大学院政治学研究科客員教授などを歴任。現在はフリーランスの技術ジャーナリスト。著書に『硅石器時代の技術と文明』『半導体産業のゆくえ』『産学連携』『電子情報通信と産業』など。
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