生産額10年半減の電子産業凋落真相 ①
2014年7月15日 お仕事【 日経新聞Web版2014/7/14 付 7:00 テクノロジー・ニュースの深層/日経テクノロジーオンライン2013年12月19日付の記事を基に再構成 】
日経Web 関係記事URL=http://www.nikkei.com/tech/
生 産 額 は 1 0 年 で 半 減 、
日 本 の 電 子 産 業 凋 落 の 真 相
電 子 立 国 は 、 な ぜ 凋 落 し た か (1)
日経テクノロジーオンライン:
日本の電子産業の衰退に歯止めがかからない。自動車と並ぶ外貨の稼ぎ頭だった電子産業は、2013年に貿易収支がとうとう赤字になった。同じ2013年の国内生産金額は、約11兆円にまで縮小した。2000年に達成したピークの約26兆円の半分以下である。日本の経済成長を支えてきた電子産業は、なぜ、ここまでの事態に陥ったのか。電子立国の再興に光はあるのか。連載「電子立国は、なぜ凋落したか」では、元・日経エレクトロニクス編集長で技術ジャーナリストの西村吉雄氏が、政策・経済のマクロ動向、産業史、電子技術の変遷などの多面的な視点で、凋落の本当の原因を解き明かしていく。【図表は転載略】
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巨大な産業が一つ、いま日本から消えようとしている。10兆円近い貿易黒字を出して外貨の稼ぎ頭だった日本電子産業、製品が売れすぎて世界中で貿易摩擦を起こしていた日本電子産業――今やそれは夢まぼろしである。
日本がバブル経済を謳歌していた1991年、6回シリーズのテレビ番組「NHKスペシャル 電子立国 日本の自叙伝」が放映された。この番組を基に、4巻の書籍『NHK電子立国 日本の自叙伝』も発行される。その上巻冒頭に「エレクトロニクス商品は自動車に次ぐ外貨の稼ぎ手」とある。
電子産業と自動車産業の貿易収支の年次推移を見てみよう(図2)。2000年ごろまでは両産業が拮抗していた。しかし21世紀に入ってからの両産業の歩みは対照的だ。自動車産業の貿易黒字は、乱高下はあるものの上昇基調で、2013年においても12兆円を確保している。一方、電子産業の貿易黒字は減少を続け、2013年には、赤字に転落した。
電子産業は、なぜこれほど自動車産業と差がついてしまったのか。
■ I C T 産 業 の 貿 易 赤 字 額 は 「 天 然 ガ ス 」 並 み
電子産業のなかで貿易赤字が大きいのはコンピューター関連装置と通信機器である。2013 年の赤字額はそれぞれ、1兆6450億円と2兆870億円に達する。合計すれば赤字額は3兆7000億円を超える。
日本のICT(情報通信技術)産業は、貿易では大赤字だ。原発停止に伴い天然ガスの輸入量が増え、円安効果もあって天然ガス輸入金額が増加した。その金額は2013年で約3兆6000億円という試算がある。ICT産業の貿易赤字額3兆7000億円は、天然ガスの輸入増加金額以上ということになる。
今や消費者の多くにとって不可欠のツールとなったスマートフォン(スマホ)やタブレット端末だが、その裏にはICT産業の貿易赤字は「天然ガス」並みという知られざる事実があった。
■ 輸 入 比 率 が 高 い ス マ ホ
貿易赤字は、一つの企業にとって、あるいは一つの国にとって、ただちに「悪」というわけではない。海外の適地に工場をつくり、そこから自社製品を輸入する。貿易収支的には赤字になるが、企業としての利益は確保できる。
海外の自社工場で作った製品を、海外市場に売り広げる。たとえば少し前には、メキシコの工場でテレビを作り、それを米国に販売することを、日本企業がよく実施していた。この場合は企業や国の貿易収支には関係がない。 いずれの場合も、企業や国の経常収支に貢献する可能性がある。
しかし最近、そのような活動によって大きな利益を上げている例は、電子産業に関する限り、あまり聞かない。たとえばスマホもタブレット端末も、輸入比率が高い。これらの輸入品を製造販売しているのは日本企業ではない。
ちなみに2013年度(2013年4月~2014年3月)の日本の貿易収支は10兆8642億円の赤字だった。赤字額は過去最大である。ICT産業の赤字3兆7000億円の影響は大きい。
■ 部 品 事 業 に 傾 斜 す る 日 本 の 電 子 産 業
ICT産業が3兆7000億円もの貿易赤字を出しているのに、電子産業全体では、7700億円ほどの赤字で済んでいる。電子部品の貿易収支が2兆9000億円の黒字だからである。
日本の電子産業は、部品産業の性格を強めている。電子産業全体に占める電子部品(電子デバイスを含む)の比率は、生産では6割、輸出では8割に達する。
これは個々の企業レベルにも見られる傾向である。「液晶テレビの雄」だったシャープはいま、部品としての液晶パネルに活路を見出している。同社は2014年3月期の連結決算で、3期ぶりの黒字化を達成した。その原動力はテレビではなく、部品としての液晶パネルである。 つづく
日経Web 関係記事URL=http://www.nikkei.com/tech/
生 産 額 は 1 0 年 で 半 減 、
日 本 の 電 子 産 業 凋 落 の 真 相
電 子 立 国 は 、 な ぜ 凋 落 し た か (1)
日経テクノロジーオンライン:
日本の電子産業の衰退に歯止めがかからない。自動車と並ぶ外貨の稼ぎ頭だった電子産業は、2013年に貿易収支がとうとう赤字になった。同じ2013年の国内生産金額は、約11兆円にまで縮小した。2000年に達成したピークの約26兆円の半分以下である。日本の経済成長を支えてきた電子産業は、なぜ、ここまでの事態に陥ったのか。電子立国の再興に光はあるのか。連載「電子立国は、なぜ凋落したか」では、元・日経エレクトロニクス編集長で技術ジャーナリストの西村吉雄氏が、政策・経済のマクロ動向、産業史、電子技術の変遷などの多面的な視点で、凋落の本当の原因を解き明かしていく。【図表は転載略】
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巨大な産業が一つ、いま日本から消えようとしている。10兆円近い貿易黒字を出して外貨の稼ぎ頭だった日本電子産業、製品が売れすぎて世界中で貿易摩擦を起こしていた日本電子産業――今やそれは夢まぼろしである。
日本がバブル経済を謳歌していた1991年、6回シリーズのテレビ番組「NHKスペシャル 電子立国 日本の自叙伝」が放映された。この番組を基に、4巻の書籍『NHK電子立国 日本の自叙伝』も発行される。その上巻冒頭に「エレクトロニクス商品は自動車に次ぐ外貨の稼ぎ手」とある。
電子産業と自動車産業の貿易収支の年次推移を見てみよう(図2)。2000年ごろまでは両産業が拮抗していた。しかし21世紀に入ってからの両産業の歩みは対照的だ。自動車産業の貿易黒字は、乱高下はあるものの上昇基調で、2013年においても12兆円を確保している。一方、電子産業の貿易黒字は減少を続け、2013年には、赤字に転落した。
電子産業は、なぜこれほど自動車産業と差がついてしまったのか。
■ I C T 産 業 の 貿 易 赤 字 額 は 「 天 然 ガ ス 」 並 み
電子産業のなかで貿易赤字が大きいのはコンピューター関連装置と通信機器である。2013 年の赤字額はそれぞれ、1兆6450億円と2兆870億円に達する。合計すれば赤字額は3兆7000億円を超える。
日本のICT(情報通信技術)産業は、貿易では大赤字だ。原発停止に伴い天然ガスの輸入量が増え、円安効果もあって天然ガス輸入金額が増加した。その金額は2013年で約3兆6000億円という試算がある。ICT産業の貿易赤字額3兆7000億円は、天然ガスの輸入増加金額以上ということになる。
今や消費者の多くにとって不可欠のツールとなったスマートフォン(スマホ)やタブレット端末だが、その裏にはICT産業の貿易赤字は「天然ガス」並みという知られざる事実があった。
■ 輸 入 比 率 が 高 い ス マ ホ
貿易赤字は、一つの企業にとって、あるいは一つの国にとって、ただちに「悪」というわけではない。海外の適地に工場をつくり、そこから自社製品を輸入する。貿易収支的には赤字になるが、企業としての利益は確保できる。
海外の自社工場で作った製品を、海外市場に売り広げる。たとえば少し前には、メキシコの工場でテレビを作り、それを米国に販売することを、日本企業がよく実施していた。この場合は企業や国の貿易収支には関係がない。 いずれの場合も、企業や国の経常収支に貢献する可能性がある。
しかし最近、そのような活動によって大きな利益を上げている例は、電子産業に関する限り、あまり聞かない。たとえばスマホもタブレット端末も、輸入比率が高い。これらの輸入品を製造販売しているのは日本企業ではない。
ちなみに2013年度(2013年4月~2014年3月)の日本の貿易収支は10兆8642億円の赤字だった。赤字額は過去最大である。ICT産業の赤字3兆7000億円の影響は大きい。
■ 部 品 事 業 に 傾 斜 す る 日 本 の 電 子 産 業
ICT産業が3兆7000億円もの貿易赤字を出しているのに、電子産業全体では、7700億円ほどの赤字で済んでいる。電子部品の貿易収支が2兆9000億円の黒字だからである。
日本の電子産業は、部品産業の性格を強めている。電子産業全体に占める電子部品(電子デバイスを含む)の比率は、生産では6割、輸出では8割に達する。
これは個々の企業レベルにも見られる傾向である。「液晶テレビの雄」だったシャープはいま、部品としての液晶パネルに活路を見出している。同社は2014年3月期の連結決算で、3期ぶりの黒字化を達成した。その原動力はテレビではなく、部品としての液晶パネルである。 つづく
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