日経経済教室:『高齢』定義,見直しの時①
2014年4月5日 お仕事 日本経済新聞2014年4月4日(金)付「経済教室」欄に、人口減少社会の設計図(下)/『高齢』の定義 、見直しの時・・・と題して、国立社会保障・人口問題研究所副所長の金子 隆一氏(1956年生まれ。東大理卒。ペンシルベニア大博士。専門は人間学)の論文掲載がありました。
その論旨ポイントは要約すると、下記大略三項になるといいます。
◎ 従 来 の 高 齢 化 率 は 、 高 齢 化 の 実 像 を 過 小 評 価
◎ 長 寿 化 を 映 し た 新 定 義 で は 、 効 率 化 率 が 半 減
◎ 個 人 差 大 き く 、 一 律 の 基 準 年 齢 上 げ に は 弊 害
その大見出しには、「 平均余命 延長に対応/健康・能力応じ活躍の場を」を掲げ、当該論旨を実現させるためには、「高齢者がその健康の程度や能力に応じて活躍できる社会(=生涯現役社会)づくりが先決である」と結論付けていることを付記し、生涯現役仲間皆様にご参考までに表題①と②で転載ご紹介させていただきます。
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『 高 齢 』 の 定 義 、 見 直 し の 時
平 均 余 命 延 長 に 対 応
健 康 ・ 能 力 応 じ 活 躍 の 場 を
国立社会保障・人口問題研究所副所長 金子 隆一
わが国の人口高齢化は本番を迎えようとしている。 改めて考えてみたい。65歳以上の高齢人口は2012年初めに3000万人を超えたが、今年までの3年間は年間に110万ずつ増え、今年中には14歳以下の子どもの人口の2倍を超える。
65歳以上の高齢者が人口に占める割合(高齢化率)も昨年9月に25%を上回り、4人中1人が高齢者となった。高齢化率が世界一となって10年ほどたつが、いまだ上昇は性急で、20年の東京五輪の頃には29%に達し、世界2位のドイツに6%も水をあけることになりそうだ。
高齢人口の増加は2010年代の664万人が最大で、20年代、30年代はそれぞれ73万人、183万人の増、40年代以降はマイナスに転じる。しかし、若者のほうがより多く減るため、高齢化率は40年代以降も伸び続ける。
実は高齢化率は、高齢化の実像を過小評価する側面がある。65歳以上人口を一塊としてみる指標だが、塊の中をみると高い年齢層ほど増加が速く、比率が上昇する。30年の65歳以上人口は10年と比べ25%増えるが、75歳以上は61%増、85歳以上は121%増、100歳以上に至っては476%増となる。いわば高齢人口が高齢化していくので、65歳以上を一括に扱うと高齢化の重要な側面が見逃される。従って本来は政策ニーズの把握や市場予測には向かない。
日本の高齢化は未曽有のことであり、誰も見たことのない社会である。労働生産性や消費構造、社会保障財政への影響が指摘されるが、高度に複雑化した現代経済社会の展開の実像をつかむことは非常に難しい。人口統計指標は数少ないよりどころであるが、正しい理解を欠くとかえって結論を誤りかねない。
高齢化率について一般によく聞かれる異論は、過小評価傾向のことではなく、むしろ、65歳以上と定義することについてである。一律に引き上げるべきという意見は絶えない。
国際比較や時系列比較の都合上、高齢化率の規格は簡単には変えられないが、固定的な高齢の定義に違和感を持つことは理解できる。要するに目的に合った指標を選ぶ工夫が必要なのであり、比較のための統計指標と社会制度を考える際の基準は、ひとまず分けて考える必要がある。
今、最も懸念されているのは、働き手の人口割合の低下が国民経済や地域社会を保つうえで足かせになるということであろう。これは近年、人口オーナス(人口負荷)と表現されることが多い。元となる指標は従属人口指数であり、子どもの人口と高齢人口を従属人口とし、15~64歳の生産年齢人口で割って得られる。働き手1人当たりの平均扶養人数を表す。
戦前は70%前後(1人の働き手が0.7人を扶養)だったが、戦後は1960年代後半から2000年前後まで40%台という低さで、経済成長を後押しした。10年は56.7%であり、今後は60年の96.3%へと著しい負荷の高まりが見込まれている。
こうした指標から、わが国が世界でも飛び抜けて厳しい高齢化に向かっていることがわかる。世界一の長寿の実現と同時に、出生率が世界で最も低いグループに属しているからにほかならない。
とりわけ1970年代半ばから続いた少子化の影響が大きい。長寿化も少子化も、経済社会の発展のなかで人生に多様な可能性をもたらすものとして求められ、選択されてきた。その帰結が人口減と超高齢化社会における負担増というのは逆説的である。実はこの逆説を見直すなかに事態を改善するヒントがある。日本は豊富な経験と知識を備えた長寿の人々が大量に存在する社会となりつつある。疫学調査や体力測定のデーターをみても、高齢者は次第に健康になっているようである。 つづく
その論旨ポイントは要約すると、下記大略三項になるといいます。
◎ 従 来 の 高 齢 化 率 は 、 高 齢 化 の 実 像 を 過 小 評 価
◎ 長 寿 化 を 映 し た 新 定 義 で は 、 効 率 化 率 が 半 減
◎ 個 人 差 大 き く 、 一 律 の 基 準 年 齢 上 げ に は 弊 害
その大見出しには、「 平均余命 延長に対応/健康・能力応じ活躍の場を」を掲げ、当該論旨を実現させるためには、「高齢者がその健康の程度や能力に応じて活躍できる社会(=生涯現役社会)づくりが先決である」と結論付けていることを付記し、生涯現役仲間皆様にご参考までに表題①と②で転載ご紹介させていただきます。
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『 高 齢 』 の 定 義 、 見 直 し の 時
平 均 余 命 延 長 に 対 応
健 康 ・ 能 力 応 じ 活 躍 の 場 を
国立社会保障・人口問題研究所副所長 金子 隆一
わが国の人口高齢化は本番を迎えようとしている。 改めて考えてみたい。65歳以上の高齢人口は2012年初めに3000万人を超えたが、今年までの3年間は年間に110万ずつ増え、今年中には14歳以下の子どもの人口の2倍を超える。
65歳以上の高齢者が人口に占める割合(高齢化率)も昨年9月に25%を上回り、4人中1人が高齢者となった。高齢化率が世界一となって10年ほどたつが、いまだ上昇は性急で、20年の東京五輪の頃には29%に達し、世界2位のドイツに6%も水をあけることになりそうだ。
高齢人口の増加は2010年代の664万人が最大で、20年代、30年代はそれぞれ73万人、183万人の増、40年代以降はマイナスに転じる。しかし、若者のほうがより多く減るため、高齢化率は40年代以降も伸び続ける。
実は高齢化率は、高齢化の実像を過小評価する側面がある。65歳以上人口を一塊としてみる指標だが、塊の中をみると高い年齢層ほど増加が速く、比率が上昇する。30年の65歳以上人口は10年と比べ25%増えるが、75歳以上は61%増、85歳以上は121%増、100歳以上に至っては476%増となる。いわば高齢人口が高齢化していくので、65歳以上を一括に扱うと高齢化の重要な側面が見逃される。従って本来は政策ニーズの把握や市場予測には向かない。
日本の高齢化は未曽有のことであり、誰も見たことのない社会である。労働生産性や消費構造、社会保障財政への影響が指摘されるが、高度に複雑化した現代経済社会の展開の実像をつかむことは非常に難しい。人口統計指標は数少ないよりどころであるが、正しい理解を欠くとかえって結論を誤りかねない。
高齢化率について一般によく聞かれる異論は、過小評価傾向のことではなく、むしろ、65歳以上と定義することについてである。一律に引き上げるべきという意見は絶えない。
国際比較や時系列比較の都合上、高齢化率の規格は簡単には変えられないが、固定的な高齢の定義に違和感を持つことは理解できる。要するに目的に合った指標を選ぶ工夫が必要なのであり、比較のための統計指標と社会制度を考える際の基準は、ひとまず分けて考える必要がある。
今、最も懸念されているのは、働き手の人口割合の低下が国民経済や地域社会を保つうえで足かせになるということであろう。これは近年、人口オーナス(人口負荷)と表現されることが多い。元となる指標は従属人口指数であり、子どもの人口と高齢人口を従属人口とし、15~64歳の生産年齢人口で割って得られる。働き手1人当たりの平均扶養人数を表す。
戦前は70%前後(1人の働き手が0.7人を扶養)だったが、戦後は1960年代後半から2000年前後まで40%台という低さで、経済成長を後押しした。10年は56.7%であり、今後は60年の96.3%へと著しい負荷の高まりが見込まれている。
こうした指標から、わが国が世界でも飛び抜けて厳しい高齢化に向かっていることがわかる。世界一の長寿の実現と同時に、出生率が世界で最も低いグループに属しているからにほかならない。
とりわけ1970年代半ばから続いた少子化の影響が大きい。長寿化も少子化も、経済社会の発展のなかで人生に多様な可能性をもたらすものとして求められ、選択されてきた。その帰結が人口減と超高齢化社会における負担増というのは逆説的である。実はこの逆説を見直すなかに事態を改善するヒントがある。日本は豊富な経験と知識を備えた長寿の人々が大量に存在する社会となりつつある。疫学調査や体力測定のデーターをみても、高齢者は次第に健康になっているようである。 つづく
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