この人に学ぶ / 平成の世にサムライ探し①
2014年3月28日 お仕事 Jポップ、CM曲、サウンドトラック、ゲーム音楽──。様々なジャンルで膨大な数の楽曲を手がけてきた菅野よう子氏。名曲「花は咲く」の作曲家としても知られる菅野氏の音楽は、どのようにして生まれ、どのようにして紡がれているのでしょうか。『生涯現役社会づくり』に挑む私たち仲間の好奇心を大いに沸かす様な気がいたします。
その創作や発想の秘密に迫る。・・・・と銘を打っている「日立ソリューション」URL=https://premium-service.jp/psw/premium/fea_samurai/129/index.html の、ビジネスに役立つ≪上質情報提供空間≫のコンテンツ満載・第129回は、「この世でただ一つのメロディが生まれる瞬間/目の前にいる一人のために丁寧に曲を紡いでいきたい」という作曲・編曲プロデューサーの菅野よう子さんから、眼前の人に真摯に向き合う尊い人生の一瞬一瞬を学びたいものだと願います。
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【菅野よう子(かんのようこ)プロフィール】
宮城県仙台市生まれ。幼少時代から曲づくりを始め、作曲コンクールでは上位の常連だった。早稲田大学在学中から音楽の仕事に携わり、現在まで数千曲に上る楽曲を手がけている。
東日本大震災復興支援曲「花は 咲く」の作曲者、NHK朝の連続テレビ小説『ごちそうさん』の音楽担当としても知られる。
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一 人 の た め に 書 い た 曲 が
多 く の 人 々 の 心 に 届 く
── 初めて曲をつくった時を覚えていますか。
子どもって、好きな歌を勝手につくって歌ったりするじゃないですか。私も小さな頃から、自分でつくった歌に合わせて踊ったりしていました。曲としてちゃんと覚えているのは、近所に住んでいた気になる男の子に向けてつくったのが最初ですね。
「どうして曲がすらすら書けるんですか?」とよく聞かれるのですが、子どもの頃は誰でも自然に「音楽する力」を持っていると思うんです。大人になるにつれて、そのエネルギーは何かにカバーされて出せなくなってしまうんじゃないかって。
だから私は、年齢を重ねることで付け加わる大人の常識のような要素を、外す努力をいつもしています。音楽理論を勉強しておけばよかったなと思うこともあるのですが、大切なのは、理論よりも、子どもの頃のように自然にメロディーが出てくる状態に自分を保っておくことだと思っています。
── 曲を生み出す具体的な方法を教えてください。
作曲の基本的なスタンスは、「一人の人に向けてつくる」ということです。
客層とか、どのメディアで流れるかとか、そういうことは最終的には忘れて、私に曲づくりを依頼してくださった方、プロデューサー、CM曲であればその企業の社長さん、商品を生み出した開発者──。そういった特定の一人のためにつくります。
一人の人に向かい合うというのは、とても重いことだと思うんです。人の人生に含まれる情報の量ってすごくたくさんありますよね。
打ち合わせでお話を伺いながら、まるでその人から生まれるように、あるいは私が鏡になったかのように、自然に曲が出てくるのが私自身一番心地いいし、楽曲としての出来もいいと感じています。
── その人に向かい合って感じたことが、実際に曲になるまではどのような段階を踏むのですか。
段階というのは特になくて、その人に相対している時間の中で自然に出てくるんです。打ち合わせ中にそこらの紙にメロディーを書いたり、その場で書けない時は、帰りの車の中でティッシュペーパーに書いたり(笑)。そんなふうにしてすぐに出てくるものが混じり気が少なく、その人のソウルに一番近いと思っています。後からいろいろ考えると、「大人の現実」みたいなものが邪魔をして、いいものにならないことが多いです。
── 具体的なメロディーが浮かんでくるのですか。
そうです。その人の人生がメロディーになってわーっと出てきた時が、私自身一番幸せな時ですね。
── そうして完成した曲が多くの人に受け入れられるかどうかは気になりますか。
一人のためにつくれたら、私の中ではそれで満足です。その曲が皆さんに愛してもらえたらもちろんうれしいのですが、それはあくまで結果です。
でもこれまでの経験では、むしろ、一人のために丁寧に丁寧につくった曲の方が多くの人の心に届いたように思います。「大衆」とか「ヒットするためには」といったことを考えて書いたこともあるのですが、あまりいいものにはなりませんでした。
自 分 の 曲 が 自 分 の 手 を
離 れ て い く の が う れ し い
── 新しい音楽などをインプットしていますか。
意識的に新しいものをインプットすることは今はしていません。私にとって、音楽とは相手と自分との間にあるものです。今でも日々新しいジャンルの方と知り合うし、もしも仕事相手が一人だけだったとしても、人は日々変化するので、その人との間に生まれる音楽もその都度変わっていきます。
そうやって無限の可能性があるので、自分自身にあえて養分を与えるまでもなく、必要なものは向こうから来ます。むしろ、相手の言いたいことを無心に受け取れる心の状態でいるには、下手なインプットは邪魔にさえなります。
── 自分の作品を自分で歌ったり、演奏したりしたいと思うことはありませんか。
ありませんね。むしろ、つくった曲が自分の作品でなくなる時がすごくうれしいんです。例えば、オーケストラの曲を書いて、海外の演奏家に弾いてもらう時、その曲は、確かに私が書いた通りに演奏されているのだけれど、人種、世代も違う、言葉も交わせない演奏者の心や体を通った音になっているわけです。私が表現したかったものとたとえ違っていても、その人なりの感情の流れや強さが感じられて、「あ、この曲は私の手を離れた」と思う。それはとても幸せな瞬間です。
── 巣立っていった、という感じでしょうか。
そうですね。曲が私から巣立っていって、演奏者の呼吸になって空に昇っていったという感じです。歌い手の中には、「作曲家の言うことは絶対」みたいに考えていらっしゃる方もいるのですが、私はどう歌ってもらってもいいし、どう演奏してもらってもいいと思っています。自由に伸び伸びと曲に取り組んでもらって、結果的に私の曲がその人たちの音になる。それが私にとってはとても幸せなことなんです。 つづく
その創作や発想の秘密に迫る。・・・・と銘を打っている「日立ソリューション」URL=https://premium-service.jp/psw/premium/fea_samurai/129/index.html の、ビジネスに役立つ≪上質情報提供空間≫のコンテンツ満載・第129回は、「この世でただ一つのメロディが生まれる瞬間/目の前にいる一人のために丁寧に曲を紡いでいきたい」という作曲・編曲プロデューサーの菅野よう子さんから、眼前の人に真摯に向き合う尊い人生の一瞬一瞬を学びたいものだと願います。
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【菅野よう子(かんのようこ)プロフィール】
宮城県仙台市生まれ。幼少時代から曲づくりを始め、作曲コンクールでは上位の常連だった。早稲田大学在学中から音楽の仕事に携わり、現在まで数千曲に上る楽曲を手がけている。
東日本大震災復興支援曲「花は 咲く」の作曲者、NHK朝の連続テレビ小説『ごちそうさん』の音楽担当としても知られる。
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一 人 の た め に 書 い た 曲 が
多 く の 人 々 の 心 に 届 く
── 初めて曲をつくった時を覚えていますか。
子どもって、好きな歌を勝手につくって歌ったりするじゃないですか。私も小さな頃から、自分でつくった歌に合わせて踊ったりしていました。曲としてちゃんと覚えているのは、近所に住んでいた気になる男の子に向けてつくったのが最初ですね。
「どうして曲がすらすら書けるんですか?」とよく聞かれるのですが、子どもの頃は誰でも自然に「音楽する力」を持っていると思うんです。大人になるにつれて、そのエネルギーは何かにカバーされて出せなくなってしまうんじゃないかって。
だから私は、年齢を重ねることで付け加わる大人の常識のような要素を、外す努力をいつもしています。音楽理論を勉強しておけばよかったなと思うこともあるのですが、大切なのは、理論よりも、子どもの頃のように自然にメロディーが出てくる状態に自分を保っておくことだと思っています。
── 曲を生み出す具体的な方法を教えてください。
作曲の基本的なスタンスは、「一人の人に向けてつくる」ということです。
客層とか、どのメディアで流れるかとか、そういうことは最終的には忘れて、私に曲づくりを依頼してくださった方、プロデューサー、CM曲であればその企業の社長さん、商品を生み出した開発者──。そういった特定の一人のためにつくります。
一人の人に向かい合うというのは、とても重いことだと思うんです。人の人生に含まれる情報の量ってすごくたくさんありますよね。
打ち合わせでお話を伺いながら、まるでその人から生まれるように、あるいは私が鏡になったかのように、自然に曲が出てくるのが私自身一番心地いいし、楽曲としての出来もいいと感じています。
── その人に向かい合って感じたことが、実際に曲になるまではどのような段階を踏むのですか。
段階というのは特になくて、その人に相対している時間の中で自然に出てくるんです。打ち合わせ中にそこらの紙にメロディーを書いたり、その場で書けない時は、帰りの車の中でティッシュペーパーに書いたり(笑)。そんなふうにしてすぐに出てくるものが混じり気が少なく、その人のソウルに一番近いと思っています。後からいろいろ考えると、「大人の現実」みたいなものが邪魔をして、いいものにならないことが多いです。
── 具体的なメロディーが浮かんでくるのですか。
そうです。その人の人生がメロディーになってわーっと出てきた時が、私自身一番幸せな時ですね。
── そうして完成した曲が多くの人に受け入れられるかどうかは気になりますか。
一人のためにつくれたら、私の中ではそれで満足です。その曲が皆さんに愛してもらえたらもちろんうれしいのですが、それはあくまで結果です。
でもこれまでの経験では、むしろ、一人のために丁寧に丁寧につくった曲の方が多くの人の心に届いたように思います。「大衆」とか「ヒットするためには」といったことを考えて書いたこともあるのですが、あまりいいものにはなりませんでした。
自 分 の 曲 が 自 分 の 手 を
離 れ て い く の が う れ し い
── 新しい音楽などをインプットしていますか。
意識的に新しいものをインプットすることは今はしていません。私にとって、音楽とは相手と自分との間にあるものです。今でも日々新しいジャンルの方と知り合うし、もしも仕事相手が一人だけだったとしても、人は日々変化するので、その人との間に生まれる音楽もその都度変わっていきます。
そうやって無限の可能性があるので、自分自身にあえて養分を与えるまでもなく、必要なものは向こうから来ます。むしろ、相手の言いたいことを無心に受け取れる心の状態でいるには、下手なインプットは邪魔にさえなります。
── 自分の作品を自分で歌ったり、演奏したりしたいと思うことはありませんか。
ありませんね。むしろ、つくった曲が自分の作品でなくなる時がすごくうれしいんです。例えば、オーケストラの曲を書いて、海外の演奏家に弾いてもらう時、その曲は、確かに私が書いた通りに演奏されているのだけれど、人種、世代も違う、言葉も交わせない演奏者の心や体を通った音になっているわけです。私が表現したかったものとたとえ違っていても、その人なりの感情の流れや強さが感じられて、「あ、この曲は私の手を離れた」と思う。それはとても幸せな瞬間です。
── 巣立っていった、という感じでしょうか。
そうですね。曲が私から巣立っていって、演奏者の呼吸になって空に昇っていったという感じです。歌い手の中には、「作曲家の言うことは絶対」みたいに考えていらっしゃる方もいるのですが、私はどう歌ってもらってもいいし、どう演奏してもらってもいいと思っています。自由に伸び伸びと曲に取り組んでもらって、結果的に私の曲がその人たちの音になる。それが私にとってはとても幸せなことなんです。 つづく
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