8/28付 東京新聞「談論誘発」欄に掲載された草間吉夫茨城県高萩市長の「だんろん/Opinion」記事。それを受けての寄稿/清家篤慶応義塾長(1954年生まれ。専門は労働経済学。著書に「生涯現役社会の条件」など)の「ゆうはつ/Polemic」記事です。見出し:“高齢者自身に高い就労意欲/能力発揮できる社会作りを”をご紹介します。
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   【 高 齢 者 自 身 に 高 い 就 労 意 欲 /
        能  力  発  揮  で  き  る  社  会  作  り  を 】

  直近の日本の高齢人口比率は23.6%と、人口の約4人に1人は65歳以上の高齢者である。すでに世界で最も高い高齢人口比率であるが、今後もさらに上昇を続け、今年生まれた子供が成人する2030年代前半には人口の3人に1人、今世紀半ばの2050年代前半には5人のうち2人が高齢者になる。文字通り日本は世界一の超高齢大国である。

  高齢化は社会保障の給付増大などから財政悪化の主要因となっている。また、生産力や内需を減らし経済成長率を低下させる要因ともなりうる。しかし、いうまでもなく高齢化は、長生きの反映であり、日本の経済社会が豊かになった証しでもある。長生きするようになったことを嘆くのではなく、真に喜べるようにすべきである。

  高齢化そのものが問題なのではない。高齢化したのに、人口が若かった時代のままの制度や行動様式が変わらないことが問題なのだ。その典型が、15歳から64歳の人口を「生産年齢人口」とする考えかたである。

  今日15歳から働き始める人はまれであり、一方65歳を過ぎても働き続ける人は少なくない。数も多く、働く意欲もある高齢者に社会を支えてもらうよう発想を転換すべきである。

  生涯現役社会を目指すということだ。つまり、さまざまな形で社会に貢献する意志と能力のある高齢者が、その能力を十分に発揮できるような社会を作るということである。

  高齢者が税金や保険料を払う側で社会保障制度を支えてくれる。高齢者が能力を活かし、また消費者として生産や内需を支えてくれる。そしてそれが高齢者自身の健康や生きがいになるような社会だ。

  生涯現役社会が実現できれば、高齢化しても社会の活力は失われない。幸い日本は、高齢者自身の就労意欲が国際的にみてきわめて高い。つまり日本は一方では世界一の高齢大国であるゆえの課題も大きいのだが、同時に先進国の中で高齢者の就労意欲の最も高い国であるという点で、生涯現役社会を実現しうる可能性も大きいのである。これはとてもありがたいことであり、この好条件をぜひとも生かしていかなければならない。

  高齢者が働き続けてその仕事能力を生かしていく。培った技能や経験を職場で後進に継承し、あるいは学校などでも生徒や学生の育成の一翼を担う。介護を要する超高齢者に、高齢者としてはまだ比較的若い層の人々が介護サービスを提供するといった形で助け合うこともできる。

  それらの活動は企業などに雇われる雇用者として、フリーランスで働く個人として、あるいは収入は求めないボランティアなどさまざまな形をとりうる。そうした活動を支援する行政の役割もますます大切になる。

  茨城県高萩市の取り組みはその意味で刮目すべきものだ。生涯現役社会のモデルは、高齢者の生活基盤である地方から生まれる。そのモデルが日本型高齢社会となり世界に発信される。

  高萩市の取り組みは、「最終的には世界への貢献につながる」という草間吉夫市長の心意気とともに、多くの地方自治体に共有されるべきものである。そのことに、大いに敬意を表し、また期待したいと思う。

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